ジューンブライド・パンチ
「結婚式は、6月です」

 友達に「ジューンブライドってヨーロッパの風習だから」って言われた。ここ日本だから。そして、ブライダル業界の戦略ね。分かっている。でもね、やっぱり憧れだった。日本じゃ梅雨だからね。当日に雨ザンザン降る恐れがあるしね。

 でも今日は、晴れた。奇跡的だ。

 わたし達がすごくお世話になった、ここの支配人は「僕、最初から天気の心配なんかしていませんでしたよ。絶対晴れると思っていましたから」と言っていた。
わたし達が入場する大階段は、支配人お手製の飾り付け。

 お父さんと腕を組み、階段を降りる。

「ゆっくり、ゆっくり」

 転んだら大惨事。カズミに「転げ落ちてくるなよ」と言われていた。足が震えてしまう。

 大階段を途中まで降りたところで、カズミがニコニコしながらこっちを見ている。なにその楽しそうな顔。わたしも笑顔になってしまう。

「それでは、お父様より新郎のカズミさんへ、新婦の奈津さんを、バトンタッチです」

 司会が言う。
 お父さんは、カズミとガッチリと握手をした。ふたりとも緊張しすぎで、きっと感動なんて味わえていないんだろうな。

 お父さんと腕を組んで歩くなんて、まず無いだろう。
 たくさん迷惑と心配をかけた。言葉で表現できない。なんだか、ちゃちなものになってしまいそうで。
 お父さんなんか嫌いだ。居なくなればいい。そう思った時もあった。

 お父さんからカズミへわたしは腕を取り替える。
 お父さんの腕のほうが新鮮。カズミの腕はなんとなく、掴み慣れた腕だった。子供の頃はお父さんの腕につかまってばかりだったのにね。両親との生活からカズミの妻へ。苗字も変わった。

 涙が、抑えられなくなった。思ったよりも涙の粒は大きくて、ベールがあって良かった。わたしは、きっと泣くだろうとは思っていた。だから、我慢しない。

 カズミと一緒に階段を降りる。わたしは「うえっ、うえっ」と嗚咽がおさえられない。

「うっうっ、な、泣いちゃった」

「ええ?」

 カズミは友人達が気になって、わたしの話なんか聞いてない様子だ。「俺、もらい泣きするから、泣くなよ」って言われていたんだけれど。
 泣くどころか、すごく楽しそうだ。ちょっと子供っぽいですけれど、頼りないけれど、夫なんです。
 カズミのあご髭を引っ張ってやりたくなった。

 プロポーズはちゃんとされたけど、入籍した今でも「結婚してくれ」って、ふざけて言う。「言い足りないみたい」だなんて言っている。なんか、本当に天然だよね。

 両親に会う予定を立てるまで、会うたびに「結婚しよう」って言われていた。

「そんな大事なこと、軽々しく言わないほうが良いよ」

「違うよ、そんなんじゃねぇよ」

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