秘めた想い~紅い菊の伝説2~
序章
 街外れ…。
 この街ができる以前からその場所に断っている古い寺の境内に二つの人影があった。
 一人は四十代くらいの男性、もう一人はまだ十代前半くらいの少年の陰だった。
「親父、どうしても俺がやらなきゃならないのか?」
 少年の声には怒りと戸惑いがあった。
「そうだ、『紅い菊』が目覚めてしまった以上、一刻の猶予もない」
 父親らしい男の声には決して動くことのない決意があった。
「だけど、なんで俺が…」
「お前は選ばれたのだ。その剣に…」
 父親はそう言うと少年の手の上で冷たく光っている小刀を指さした。
「『紅い菊』はその剣でしか倒すことはできない」
 冷たい風が境内を吹き抜けていく。
 その冷気は二人の体温を容赦なく奪っていく。
「お前が決心できないのは私にもわかる。何しろ幼い頃から一緒だったのだからな。情が移るのも無理のないことだ…」
 少年は答えない。
 父親は続ける。
「だが、そのままにしておく訳にはいかないんだ。『紅い菊』は人を殺す。それも大勢の人間を…」
 少年はまだ何も言わない。
 父親は少年の肩に手を置く。
「俺には…、できない」
「これは宿命なのだ。誰かが背負わなければならない運命なのだ」
 父親の視線が少年のそれを捉える。
「わかってくれ、啓介」
 榊啓介は手にした小刀を鞘に収めた。
< 1 / 37 >

この作品をシェア

pagetop