秘めた想い~紅い菊の伝説2~
「大野、どこ見てんだ?」
 休み時間、騒がしい教室の中で教科書を広げている孝に義男は声をかけた。孝は確かに教科書を広げていた、だがその視線は別の方向に向けられていた。義男はそれを知っていて声をかけたのだ。高篠視線を追って…。
「別に、教科書を見ているだけさ」
 孝は罰が悪そうに応え、視線を教科書に向けた。耳が熱かった。
「隠すことないじゃん、和田のことを見ていたんだろう?」
 義男の目が悪戯っぽく笑っている。
「そんなこと…」
 孝はそれを否定しようとする。
「隠すなよ、みんな知っていることだぜ。もう告白(コク)ったのか?」
 義男は声を潜め、顔を孝に近づけてきた。
「よせよ、そんなんじゃない」
 孝は義男に抗議の言葉を発した。だがその顔は下を向き声は小さいものだったから効果はなかった。
 案の定義男は畳みかけてきた。
「いい加減告白(コク)っちまえよ。クラス委員であれだけ一緒にいるんだから」
 そのとき、義男の背後から手が伸びてきた。
「よせよ…」
「なんだよ啓介、邪魔すんなよ」
 手の主は啓介だった。
「大野の好きなようにさせてやれよ。俺たちが関わることじゃない。それに一緒にいるのが長かったら告白しなけりゃならないのか?」
 啓介の質問は的を得ていないとでも言うかのように義男はとぼけて見せた。
「それならお前と佐伯はどうなんだよ。結構一緒にいる時間が多いぜ」
 啓介は教室の後ろで佇んでいるさえと美鈴の方を親指で指さした。
「だったらお前と鏡はどうなんだよ」
 義男は啓介に食い下がってくる。
「だろう?一緒にいるからって告白(コク)らなければならないってことはないんだ」
 啓介はそう義男を諭して孝から離れていった。
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