秘めた想い~紅い菊の伝説2~
 同じ頃…。
 美しが丘中学の一年B組の教室、美佳は遅い帰り支度をしていた。彼女の傍には理恵がいた。
「ねえ美佳、あんた渡したの?杉山君に」
 理恵は美佳の反応を面白がるように言った。「義理ならいくつか配ったわよ。大野君達に」
 美佳は惚けている。
「あんたそれでもいいの?」
「いいもなにも、彼には佐伯さんがいるじゃない」
 美佳の言葉通り義男と佐枝の仲には他人が入り込めないような感じがあった。だがそれは恋人というよりは幼なじみだと理解しているものが多かった。だから美佳のように感じるものは少なかった。
「知っているわよ。二人は幼なじみなんでしょう?そんなの関係ないわよ」
 理恵はあっけらかんとして言う。
「こういうのってさ、大胆さも大事だよ。A組の紺野さんだってあげたみたいだから」
「紺野さんって、あのおとなしい?」
「そうよ、驚いたでしょう?」
 どこで聞いてきたのか、理恵は体育館裏での出来事のことを知っているようだった。彼女は情報通とでも言うのか、誰よりも先にいろいろな出来事のことを知っていた。
 美佳はそのことに動じることもなく軽く受け流した。
「美佳、捕られちゃうかもしれないよ。杉山君優しいから…」
 理恵は動じない美佳を揺さぶる。けれども美佳はそれに動じることもなく鞄を閉じて理恵を促した。
「どうでもいいわよ、そんなこと。」
 美佳はさっさと教室のドアの方へ歩いて行く。取り残されそうになった理恵は慌てて彼女の後を追う。
「でも、美佳が乗ってくれないと面白くないじゃん」
「なにそれ、どういう意味?」
「だって、美佳も杉山君に気があるんでしょう?そうしたら佐伯さんと紺野さんとの三つ巴になるじゃない?」
「女の争いってわけ?」
「そうそう」
 理恵は目を潤ませている。尻尾でもあれば犬が飼い主を見つけたときのように思いっきり振られていただろう。
「最っ低…」
 美佳は呆れたように理恵を見下ろした。
「そんなこと言わないでよ。私はただなかなか告白できないあんたを応援しているだけだよ」
「嘘つかないでよ。人の恋愛を玩具にしているくせに…」
「そんなことない。真面目に応援してるんだよ」
「本当に?」
「ホントだよ」
 理恵は美佳の瞳をじっと見つめている。美佳はそのまっすぐな視線についに根負けしてしまう。
「もういいわ。でもね、私は杉山君達の間に割って入る気はないの。覚えておいてね」
 美佳は理恵の頭に手を乗せて力を入れて二、三回撫でつけた。
 二人が去っていく廊下の陰で二つの『目』が憎しみのこもった視線を彼女たちに送っていた。
(あの女も私から杉山君を奪おうっていうのか)
 声にならない『目』の声は憎しみで震えていた。
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