秘めた想い~紅い菊の伝説2~
第三章
疑問
「事故、だな」
生徒達の事情聴取を終えて中学校を去ろうとしていた小島は隣を歩く恵にそう呟いた。 最初、学校側は絵里香の件を警察に通報しなかった。救急車の手配をして、絵里香の周囲にいた生徒達から事情を聞いてそう判断したのだ。
ガラスの割れた教室は今は使われていない。この学校ができた当時は生徒数も多くすべての教室が埋まっていたのだが、ここ数年の少子化により次第に生徒数が減っていき、開いた教室が目立つようになっていた。
そういう教室の一部は地元の人間に解放されておりサークル活動などに利用されていたが、普段は施錠されていて誰も近づかなかった。
問題の教室もやはり施錠されていて誰も中に入った者はいなかったことが確認されていた。
それならば何故ガラスは割れたのか、そういう疑問もわいたのだが結局老朽化したガラスが何かの弾みで割れたのだろうと判断されたのだ。
しかし絵里香を収容した病院の医師が傷の不自然さに気づき警察に通報した。
それで小島と恵が学校を訪れたのだった。「でも事故にしては不自然なところがあると思いません?」
恵は事故現場やガラスの割れた教室の画像を納めたスマートフォンを見ながら言った。「嬢ちゃん、どんなところだい?」
「まず、何故誰もいない教室のガラスが割れたのか。ガラスは内側から割れています。そしてもう一つは何故ガラスはあの生徒一人に集中して降ったのか」
恵は小島の横顔をのぞき込む。
恵の言うとおり、この事故には不自然な点が二つあった。絵里香に降り注いだガラスは誰もいない教室で強い力で押し破られていた。そして普通ならば散らばって落ちるはずのガラスは絵里香一人を狙ったように落ちていった。更にいうならそのガラスの破片はすべてナイフのように鋭く尖っていた。そして、それはまるで誰かが悪意を持って絵里香を襲ったかのようだった。
「確かに嬢ちゃんの言うとおり不自然な点がある。しかしその不自然さは事件にするためには弱すぎる。人の関与が認められないんだ」
小島はコートのポケットから取り出したくたびれた煙草を口にくわえた。とたんに恵の顔に抗議の色が浮かんだ。
「私もそれはわかっています。でもどこかしっくりしないんです」
恵はそう言うと停めてあった覆面パトカーの運転席側のドアを開けた。
生徒達の事情聴取を終えて中学校を去ろうとしていた小島は隣を歩く恵にそう呟いた。 最初、学校側は絵里香の件を警察に通報しなかった。救急車の手配をして、絵里香の周囲にいた生徒達から事情を聞いてそう判断したのだ。
ガラスの割れた教室は今は使われていない。この学校ができた当時は生徒数も多くすべての教室が埋まっていたのだが、ここ数年の少子化により次第に生徒数が減っていき、開いた教室が目立つようになっていた。
そういう教室の一部は地元の人間に解放されておりサークル活動などに利用されていたが、普段は施錠されていて誰も近づかなかった。
問題の教室もやはり施錠されていて誰も中に入った者はいなかったことが確認されていた。
それならば何故ガラスは割れたのか、そういう疑問もわいたのだが結局老朽化したガラスが何かの弾みで割れたのだろうと判断されたのだ。
しかし絵里香を収容した病院の医師が傷の不自然さに気づき警察に通報した。
それで小島と恵が学校を訪れたのだった。「でも事故にしては不自然なところがあると思いません?」
恵は事故現場やガラスの割れた教室の画像を納めたスマートフォンを見ながら言った。「嬢ちゃん、どんなところだい?」
「まず、何故誰もいない教室のガラスが割れたのか。ガラスは内側から割れています。そしてもう一つは何故ガラスはあの生徒一人に集中して降ったのか」
恵は小島の横顔をのぞき込む。
恵の言うとおり、この事故には不自然な点が二つあった。絵里香に降り注いだガラスは誰もいない教室で強い力で押し破られていた。そして普通ならば散らばって落ちるはずのガラスは絵里香一人を狙ったように落ちていった。更にいうならそのガラスの破片はすべてナイフのように鋭く尖っていた。そして、それはまるで誰かが悪意を持って絵里香を襲ったかのようだった。
「確かに嬢ちゃんの言うとおり不自然な点がある。しかしその不自然さは事件にするためには弱すぎる。人の関与が認められないんだ」
小島はコートのポケットから取り出したくたびれた煙草を口にくわえた。とたんに恵の顔に抗議の色が浮かんだ。
「私もそれはわかっています。でもどこかしっくりしないんです」
恵はそう言うと停めてあった覆面パトカーの運転席側のドアを開けた。