秘めた想い~紅い菊の伝説2~
絵里香の容態はそれほど悪くはなかった。いくつものガラスの破片が体に食い込んではいたが、その傷のどれもがさほど深くなく、また大事な血管を傷つけてはいなかったから大事には至らなかったのだ。
だが、顔の傷だけは違っていた。
三つほどのガラスが顔に大きな傷を残していたのだ。それらの傷は体の傷よりも大きく、また深かった。そのために数針縫わなければならず、完治したとしても傷跡は大きく残ってしまうとのことだった。
そのことを担任の福原から聞いた義男は責任を感じてしまった。
あのとき、何故自分は絵里香を突き飛ばしてしまったのだろう…。彼女を庇って走り出すこともできたのではないか。だが自分はそうしなかった。そのために彼女は背中から倒れ込みカラスで顔を傷つけることになってしまったのだ。
彼女はどれほど傷ついてしまったのだろう…。女の子が顔を傷つけてしまうという意味は義男でさえもわかっていた。自分は絵里香の未来を奪ってしまったのではないか、義男の頭の中をそんな思いが駆け回っていた。
佐枝のことといい、絵里香のことといい、このところ自分の周りで悪いことが起こっている。これは偶然なのだろうか。
そういえば、絵里香を守ろうとして彼女を突き飛ばしたとき、落ちてくるガラス片の軌道が変わったように見えた。そのまま落ちてくれば誰もいない地面にほとんどのガラス片が落下したはずなのだ。
あのガラス片は絵里香を標的として落下してきたように思えて仕方がなかった。
あれこれと考えていると誰かが後ろから肩を叩いてきた。振り返るとそこには啓介と美鈴の姿があった。
「どうしたんだ。珍しく落ち込んで…」
答えがわかっていながらも啓介はことさら明るく話しかけてきた。だが義男は応えることができなかった。
「紺野さんのこと、気にしているの?」
今度は美鈴だ。
二人とも自分のことを気に掛けてくれている。義男は少し救われた気がした。
「だけど不思議だよな、誰もいない教室のガラスが割れるなんてね」
「そうなんだ、それがまるで紺野さんを狙ったように落ちてきた」
「狙ったように?」
「そうなんだ。紺野さんを突き飛ばしたとき、落ちてくるガラスが軌道を変えたように見えたんだ」
そう、あのとき確かに軌道を変えた。あり得ないことだけれども、そうとしか考えられなかった。
あれは事故なんかじゃない。
事故ではなく何か別のことが自分の周りで起こっている。義男はそう確信した。確信したが、誰にも話すことはできない。誰がこんなことを信じるのだろうか。
義男にはわからなかった。
だからこの二人にも、これ以上のことは話せない。義男がそう思ったとき、美鈴の声が聞こえてきた。
「あれは事故よ」
それは義男の心を見透かしたような言葉だった。だが、そういった言葉とは裏腹に美鈴は違った答えを持っていた。目の前にいる義男の後ろに彼を抱きしめるようにしている赤黒い影を認めていた。
あれは『もの』だ。
美鈴はこの二つの事故に『もの』が関わっていることを知った…。
だが、顔の傷だけは違っていた。
三つほどのガラスが顔に大きな傷を残していたのだ。それらの傷は体の傷よりも大きく、また深かった。そのために数針縫わなければならず、完治したとしても傷跡は大きく残ってしまうとのことだった。
そのことを担任の福原から聞いた義男は責任を感じてしまった。
あのとき、何故自分は絵里香を突き飛ばしてしまったのだろう…。彼女を庇って走り出すこともできたのではないか。だが自分はそうしなかった。そのために彼女は背中から倒れ込みカラスで顔を傷つけることになってしまったのだ。
彼女はどれほど傷ついてしまったのだろう…。女の子が顔を傷つけてしまうという意味は義男でさえもわかっていた。自分は絵里香の未来を奪ってしまったのではないか、義男の頭の中をそんな思いが駆け回っていた。
佐枝のことといい、絵里香のことといい、このところ自分の周りで悪いことが起こっている。これは偶然なのだろうか。
そういえば、絵里香を守ろうとして彼女を突き飛ばしたとき、落ちてくるガラス片の軌道が変わったように見えた。そのまま落ちてくれば誰もいない地面にほとんどのガラス片が落下したはずなのだ。
あのガラス片は絵里香を標的として落下してきたように思えて仕方がなかった。
あれこれと考えていると誰かが後ろから肩を叩いてきた。振り返るとそこには啓介と美鈴の姿があった。
「どうしたんだ。珍しく落ち込んで…」
答えがわかっていながらも啓介はことさら明るく話しかけてきた。だが義男は応えることができなかった。
「紺野さんのこと、気にしているの?」
今度は美鈴だ。
二人とも自分のことを気に掛けてくれている。義男は少し救われた気がした。
「だけど不思議だよな、誰もいない教室のガラスが割れるなんてね」
「そうなんだ、それがまるで紺野さんを狙ったように落ちてきた」
「狙ったように?」
「そうなんだ。紺野さんを突き飛ばしたとき、落ちてくるガラスが軌道を変えたように見えたんだ」
そう、あのとき確かに軌道を変えた。あり得ないことだけれども、そうとしか考えられなかった。
あれは事故なんかじゃない。
事故ではなく何か別のことが自分の周りで起こっている。義男はそう確信した。確信したが、誰にも話すことはできない。誰がこんなことを信じるのだろうか。
義男にはわからなかった。
だからこの二人にも、これ以上のことは話せない。義男がそう思ったとき、美鈴の声が聞こえてきた。
「あれは事故よ」
それは義男の心を見透かしたような言葉だった。だが、そういった言葉とは裏腹に美鈴は違った答えを持っていた。目の前にいる義男の後ろに彼を抱きしめるようにしている赤黒い影を認めていた。
あれは『もの』だ。
美鈴はこの二つの事故に『もの』が関わっていることを知った…。