秘めた想い~紅い菊の伝説2~
生き霊
目の前に白くぼんやりとした世界が広がっている。朦朧とした意識の中、最初に美鈴が感じたのはそんな世界だった。
やがてそれは次第にピントが合ってきて、白い世界と感じたのは天井の色だったことがわかった。そして自分が少し硬いベッドに横たわっていることを知った。
美鈴は何が起こったのかわからず上半身を起こした。
頭の奥が鈍く痛む。
目の前の世界が回り、吐き気をもよおしてくる。
「あら、気がついたの?」
気配を感じたのか、保健室の風間由香里が白い衝立の向こうから姿を現した。
「先生、私は…」
「びっくりしたわよ、榊君と杉山君が倒れたあなたを担ぎ込んできたときには…」
由香里は美鈴の顔を覗き込んだ。
目の前に指を立て、それを目で追うように美鈴に指示した。言われたように美鈴は右に、左に由香里の指を追った。
「いったい何があったの?」
訪ねてくる由香里に美鈴は答えに困った。まさか『もの』に襲われたなどとはいえないだろう。『もの』という概念は一般に存在しない。仮にその概念を説明したとしても信じることは難しいだろう。何故なら『もの』は普通、人には見えないからだ。
だが、怪しまれないためには何か答えなければいけない。
美鈴は不意に思いついたことを口にした。「良く覚えていないんですけど、急に目の前が真っ暗になって…」
美鈴は暗に貧血だったという無難な答えを匂わせた。そして、それは由香里に伝わったようだった。
「あれ、鏡さんは貧血気味だった?」
美鈴はまた誤魔化さなければならなくなった。
「はい、最近少し…」
「夜更かしとか、朝ご飯抜きとかしているんじゃない?」
美鈴は由香里から視線をそらして頷いた。その方が効果的だと思ったからだった。
「駄目よ、ちゃんとした生活をしないと」
美鈴はもう一度頷いた。
やがてそれは次第にピントが合ってきて、白い世界と感じたのは天井の色だったことがわかった。そして自分が少し硬いベッドに横たわっていることを知った。
美鈴は何が起こったのかわからず上半身を起こした。
頭の奥が鈍く痛む。
目の前の世界が回り、吐き気をもよおしてくる。
「あら、気がついたの?」
気配を感じたのか、保健室の風間由香里が白い衝立の向こうから姿を現した。
「先生、私は…」
「びっくりしたわよ、榊君と杉山君が倒れたあなたを担ぎ込んできたときには…」
由香里は美鈴の顔を覗き込んだ。
目の前に指を立て、それを目で追うように美鈴に指示した。言われたように美鈴は右に、左に由香里の指を追った。
「いったい何があったの?」
訪ねてくる由香里に美鈴は答えに困った。まさか『もの』に襲われたなどとはいえないだろう。『もの』という概念は一般に存在しない。仮にその概念を説明したとしても信じることは難しいだろう。何故なら『もの』は普通、人には見えないからだ。
だが、怪しまれないためには何か答えなければいけない。
美鈴は不意に思いついたことを口にした。「良く覚えていないんですけど、急に目の前が真っ暗になって…」
美鈴は暗に貧血だったという無難な答えを匂わせた。そして、それは由香里に伝わったようだった。
「あれ、鏡さんは貧血気味だった?」
美鈴はまた誤魔化さなければならなくなった。
「はい、最近少し…」
「夜更かしとか、朝ご飯抜きとかしているんじゃない?」
美鈴は由香里から視線をそらして頷いた。その方が効果的だと思ったからだった。
「駄目よ、ちゃんとした生活をしないと」
美鈴はもう一度頷いた。