秘めた想い~紅い菊の伝説2~
「その『もの』は生きているわね」
美鈴の話を聞いて彼女の母、鏡美里は言った。その膝の上には碧眼の黒猫、魔鈴がいた。
魔鈴は嬉しそうに咽を鳴らしている。
「『もの』が生きている?」
「生き霊っていう奴、聞いたことがあるわよね」
美鈴は母の言葉を聞いて記憶の中をさらっていく。生き霊、生きている人間から抜け出した霊体…。それが義男に取り憑いている。義男は時々乱暴なところもあるが、誰かに恨みを買うような人物ではない。
それでは一体誰が…。
美鈴はクラスメートの顔を思い浮かべる。
「『もの』が取り憑くのは必ずしも憎悪だとは限らないわ」
美里はそんな美鈴の様子を見て言った。
「憎悪と同じように強い感情に嫉妬があるわ。嫉妬の場合、自分の恋路の邪魔をする相手に取り憑いたり、自分が思いを寄せる相手に取り憑いたりするのよ」
「でも、自分の好きな相手に何故取り憑いたりするの?」
「好きな相手に取り憑いて近づいてくる異性を排除するためよ」
美鈴は母の言葉が今回の一連の事故の動機に繋がるような気がした。
佐枝はいつも義男の傍にいる。本人達は口にしないがお互いが想い合っている。そして絵里香はバレンタインの日に義男に告白をした。彼女たちに嫉妬している人間がいるというのか…。
「だけど変ね」
美里は膝の上にいる魔鈴の首のところを人差し指で撫でている。魔鈴は気持ちよさそうに両目を細くしている。
「何が変なの?」
「佐枝ちゃんが襲われたのなら同じように一緒にいるあなたは何故無事なのかしら?」
確かにそうだ。
義男と一緒にいるのは佐枝だけではない。啓介や自分も同じように一緒にいる時間が多い。『もの』に嫉妬されてもおかしくはない。
では、何故自分は襲われないのか?
『それは私がいるからだ…』
美鈴は不意に心の奥から沸いてきた言葉に驚いた。その声の主は美鈴の中にいる『紅い菊』のものだった。
「そう、あなたには『紅い菊』がいる。そして『もの』はその事が解る」
美里は意味ありげに言った。
「私のことが解っている?」
「完全に、ではないかもしれないけど、あなたが自分にとって危険な存在だということは解っているはずよ」
魔鈴を撫でる美里の手が止まった。その目はまっすぐに美鈴に注がれている。
「これはやっかいよ。いずれあなたも狙われるでしょうけど、相手は決してあなたの前には姿を見せない。それにこのまま放っておくと…」
「放っておくと?」
「誰かが死ぬことになるかもしれない。あなたを突き飛ばしたということは、相手は確実に力をつけてきている」
魔鈴が美里の膝を降りて美鈴の足下に纏わり付いてきた。
美鈴の話を聞いて彼女の母、鏡美里は言った。その膝の上には碧眼の黒猫、魔鈴がいた。
魔鈴は嬉しそうに咽を鳴らしている。
「『もの』が生きている?」
「生き霊っていう奴、聞いたことがあるわよね」
美鈴は母の言葉を聞いて記憶の中をさらっていく。生き霊、生きている人間から抜け出した霊体…。それが義男に取り憑いている。義男は時々乱暴なところもあるが、誰かに恨みを買うような人物ではない。
それでは一体誰が…。
美鈴はクラスメートの顔を思い浮かべる。
「『もの』が取り憑くのは必ずしも憎悪だとは限らないわ」
美里はそんな美鈴の様子を見て言った。
「憎悪と同じように強い感情に嫉妬があるわ。嫉妬の場合、自分の恋路の邪魔をする相手に取り憑いたり、自分が思いを寄せる相手に取り憑いたりするのよ」
「でも、自分の好きな相手に何故取り憑いたりするの?」
「好きな相手に取り憑いて近づいてくる異性を排除するためよ」
美鈴は母の言葉が今回の一連の事故の動機に繋がるような気がした。
佐枝はいつも義男の傍にいる。本人達は口にしないがお互いが想い合っている。そして絵里香はバレンタインの日に義男に告白をした。彼女たちに嫉妬している人間がいるというのか…。
「だけど変ね」
美里は膝の上にいる魔鈴の首のところを人差し指で撫でている。魔鈴は気持ちよさそうに両目を細くしている。
「何が変なの?」
「佐枝ちゃんが襲われたのなら同じように一緒にいるあなたは何故無事なのかしら?」
確かにそうだ。
義男と一緒にいるのは佐枝だけではない。啓介や自分も同じように一緒にいる時間が多い。『もの』に嫉妬されてもおかしくはない。
では、何故自分は襲われないのか?
『それは私がいるからだ…』
美鈴は不意に心の奥から沸いてきた言葉に驚いた。その声の主は美鈴の中にいる『紅い菊』のものだった。
「そう、あなたには『紅い菊』がいる。そして『もの』はその事が解る」
美里は意味ありげに言った。
「私のことが解っている?」
「完全に、ではないかもしれないけど、あなたが自分にとって危険な存在だということは解っているはずよ」
魔鈴を撫でる美里の手が止まった。その目はまっすぐに美鈴に注がれている。
「これはやっかいよ。いずれあなたも狙われるでしょうけど、相手は決してあなたの前には姿を見せない。それにこのまま放っておくと…」
「放っておくと?」
「誰かが死ぬことになるかもしれない。あなたを突き飛ばしたということは、相手は確実に力をつけてきている」
魔鈴が美里の膝を降りて美鈴の足下に纏わり付いてきた。