秘めた想い~紅い菊の伝説2~
第四章

狭間

 昼休み、優花は一人廊下を歩いていた。図書室からの帰りだった。もうじき午後の授業のチャイムが鳴る。いつもなら絵里香が隣にいるのに、彼女は学校を休んでいる。
 無理もないだろう…。
 昨日、絵里香を見舞いに彼女の家に行ったとき、優花は中に入れてもらえなかった。仕方なく帰ろうとしたとき、二階の窓から覗き込む絵里香の姿をちらりと見た。
 絵里香は顔の大きな範囲を包帯で保護されていた。それで顔に大きな傷を負ったことを優花は悟った。
 可哀想に…。
 駄目元でも勇気を出して告白したのに…。 だが、顔に大きな怪我を負ってはそれも叶わぬことになるだろう。それどころか、これから先も絵里香はその傷を背負っていくのだろう。
 そんなことを考えながら歩いていると有価の行く手を遮る男子の胸にぶつかった。
「大丈夫?」
 その声は聞いたことがあった。
 いつも杉山義男と一緒にいる榊啓介だ。
「いえ、私…、ぼんやりしていて」
 優花は俯いてそう応えた。
「君、三崎優花さんだよね?」
 啓介は彼女が絵里香の友人であることを調べていて知っていた。佐枝といい、絵里香といい、不自然な事故に見舞われた人間の関係者として話を聞きたかったからだ。
「ちょっと話を聞きたいんだけどいいかな?」 啓介の言葉に優花は疑問を持ちながらも頷いた。
「最近、絵里香さんに変わったことはなかったかな?」
「変わったことって?」
「例えば、義男の奴に告白(こく)ったとか…」
「何故、それを?」
「噂になっている。誰が流したかはわからないけどね」
 そう、絵里香が告白したことはいつの間にか噂になっていた。その噂はどんな経路を辿ったかはわからないが、病院に入院している佐枝でさえ知っていた。
「彼女の友達だからその噂の何かを知っているんじゃないかと思って」
 啓介は優花の目を覗き込む。
「いえ、私もその噂を聞いて絵里香が告白したことを知ったんですから…」
「本当に?」
「ええ、絵里香は私にさえもその事は言いませんでした。」
 優花はまっすぐに啓介の目を見つめ返した。 その目に嘘はないように思えた。
 だが、何かを隠している。
 啓介の直感はそう訴えていた。
 この子が噂を流した人間なのだろうか?。噂を流すことによってこの子にどんな利益があるのだろうか。
 啓介は思いを巡らせた。
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