秘めた想い~紅い菊の伝説2~
くだらない…、人間は何故他の人間を所有したがるのか?
美鈴の中の『紅い菊』は誰にも聞こえないように呟いた。こんな茶番劇は早く止めにして屋上に向かえばいいのに。
遅々として進まない状況に彼女は焦れていた。いっそ自分だけが屋上に向かい『もの』を倒してしまおうか。『紅い菊』はそこまで考えて、その思いを留めた。
彼女を留めているのは、目の前にいる啓介の存在だった。彼は自分に向けた注意をそらそうとはしていなかった。そして彼の手にある青く光る剣が彼女に恐れというものを感じさせていた。
迂闊に動くことは出来ない。
『紅い菊』の精神は危険を告げていた。
ここはこいつらに合わせていた方がいい。 彼女の心はそう告げていた。
一同は佐枝の言葉を聞いて動けなかった。そこにいた誰もが彼女の気持ちに気づいていたのに、いざ叫びとして聞いてみるとその思いの強さに驚かされたのだ。
佐枝の身体は震えていた。
自分でも思いもしない言葉を口にしてしまったことが信じられなかった。
その気持ちは自分でも知らなかった思いだった。幼い頃から一緒にいたから、傍にいることが当たり前と思っていたから、義男を慕っているという気持ちに気づかなかった。
それが、こうして自分の手から離れて言ってしまいそうだと感じたとき、その思いは一気に表に吹き出してきたのだ。
それは告白された義男も同じだった。
佐枝と同じように彼女が傍にいることに今まで何の不思議も感じていなかった。幼い頃からの友達、それ以上の意識はなかった。ないと思っていた。それがあのようにはっきりと告白された今、友達という意識が揺らぎ始めていた。
佐枝は今も義男を見つめている。
そして義男も佐枝から目をそらすことが出来なかった。
やはりこの二人の間に入り込むことは出来ない。傷ついている佐枝の身体を支えながら美佳はそう思った。やはり自分の判断は間違っていなかったのだ。義男を思う気持ちを友情に変えようと判断した自分の思いは間違ってはいなかったのだ。
美佳は悲しい自分の思いを抱きながらそう思っていた。同時にこの連鎖を止めなければいけないと美佳は思っていた。
あのとき、クラスメートの目がある場で義男に告白することで自分に注意を向かせようとした。それは呪いなどというものは信じていなかったが、この一連の事故に不自然さを感じていたからだ。
義男を思う女子を襲ってくるのなら、多くの目のある場所で告白することで、その元凶を白日の下にさらすことが出来ると思ったからだった。
その目論見は当たった。
信じたくはなかったが、呪いをかけた者は牙を剥いてきた。しかし、その正体はまだわかってはいない。
それを引きずり出すにはどうしたらいいのだろうか?
美佳は考えを巡らせていた。
その目には恐怖はなかった。
ただ、この理不尽なことを引き起こしている者に対する怒りだけが美佳の瞳に映っていた。
その様子を見て孝は彼女がもつ危うさを改めて感じていた。美佳はいつでもそうだった。理不尽なことを許せず、いつもそれにあらがう行動をする。自分のもつ力には限界があるのだということには顧みない。
だから誰かが止めなければならない。
彼女を留めることで、彼女を守る者がいなければならない。
それが出来るのは自分しかいない。
孝はそう思って今まで美佳と接してきた。
たとえ彼女がそれを疎ましく思っていても、自分にはそうする事しか出来ない。
それが孝の気持ちだった。
啓介は周囲に神経を注いでいた。
義男の周りで不可解な事故を引き起こしていたのは、やはりこの世の者ではなかった。であるならば、説得することが相手に通じる筈はなかった。『もの』の想いは一途なのだ。一途すぎるため、その想いは容易に暴走する。それを止めるためには『もの』を滅する他はない。だが、そいつがどこにいるのかはわからなかった。
それに、今ここを離れるわけにはいかなかった。目の前には『紅い菊』がいる。それは容易に暴走し、危害を加える存在だと幼い頃から頭の中に叩き込まれてきた。『紅い菊』は滅しなければならない存在。それが自分に課された使命だと思ってきた。
だが、それが今は揺らいでいる。
あっては欲しくない事実が目の前にあった。『紅い菊』が美鈴でなければよいと願ってきた。しかしその想いは簡単に裏切られてしまった。
自分は幼い頃から一緒にいた美鈴を滅しなければならなくなった。それは逃げ出したくなる現実だった。
それぞれが、それぞれの思いを巡らせていた頃、義男の言葉が静かにその場に流れていった。
「やっぱり俺は屋上に行く。この連鎖を止められるのは俺しかいないのだから…」
その言葉は静かに佐枝の心に染み込んでいった。
美鈴の中の『紅い菊』は誰にも聞こえないように呟いた。こんな茶番劇は早く止めにして屋上に向かえばいいのに。
遅々として進まない状況に彼女は焦れていた。いっそ自分だけが屋上に向かい『もの』を倒してしまおうか。『紅い菊』はそこまで考えて、その思いを留めた。
彼女を留めているのは、目の前にいる啓介の存在だった。彼は自分に向けた注意をそらそうとはしていなかった。そして彼の手にある青く光る剣が彼女に恐れというものを感じさせていた。
迂闊に動くことは出来ない。
『紅い菊』の精神は危険を告げていた。
ここはこいつらに合わせていた方がいい。 彼女の心はそう告げていた。
一同は佐枝の言葉を聞いて動けなかった。そこにいた誰もが彼女の気持ちに気づいていたのに、いざ叫びとして聞いてみるとその思いの強さに驚かされたのだ。
佐枝の身体は震えていた。
自分でも思いもしない言葉を口にしてしまったことが信じられなかった。
その気持ちは自分でも知らなかった思いだった。幼い頃から一緒にいたから、傍にいることが当たり前と思っていたから、義男を慕っているという気持ちに気づかなかった。
それが、こうして自分の手から離れて言ってしまいそうだと感じたとき、その思いは一気に表に吹き出してきたのだ。
それは告白された義男も同じだった。
佐枝と同じように彼女が傍にいることに今まで何の不思議も感じていなかった。幼い頃からの友達、それ以上の意識はなかった。ないと思っていた。それがあのようにはっきりと告白された今、友達という意識が揺らぎ始めていた。
佐枝は今も義男を見つめている。
そして義男も佐枝から目をそらすことが出来なかった。
やはりこの二人の間に入り込むことは出来ない。傷ついている佐枝の身体を支えながら美佳はそう思った。やはり自分の判断は間違っていなかったのだ。義男を思う気持ちを友情に変えようと判断した自分の思いは間違ってはいなかったのだ。
美佳は悲しい自分の思いを抱きながらそう思っていた。同時にこの連鎖を止めなければいけないと美佳は思っていた。
あのとき、クラスメートの目がある場で義男に告白することで自分に注意を向かせようとした。それは呪いなどというものは信じていなかったが、この一連の事故に不自然さを感じていたからだ。
義男を思う女子を襲ってくるのなら、多くの目のある場所で告白することで、その元凶を白日の下にさらすことが出来ると思ったからだった。
その目論見は当たった。
信じたくはなかったが、呪いをかけた者は牙を剥いてきた。しかし、その正体はまだわかってはいない。
それを引きずり出すにはどうしたらいいのだろうか?
美佳は考えを巡らせていた。
その目には恐怖はなかった。
ただ、この理不尽なことを引き起こしている者に対する怒りだけが美佳の瞳に映っていた。
その様子を見て孝は彼女がもつ危うさを改めて感じていた。美佳はいつでもそうだった。理不尽なことを許せず、いつもそれにあらがう行動をする。自分のもつ力には限界があるのだということには顧みない。
だから誰かが止めなければならない。
彼女を留めることで、彼女を守る者がいなければならない。
それが出来るのは自分しかいない。
孝はそう思って今まで美佳と接してきた。
たとえ彼女がそれを疎ましく思っていても、自分にはそうする事しか出来ない。
それが孝の気持ちだった。
啓介は周囲に神経を注いでいた。
義男の周りで不可解な事故を引き起こしていたのは、やはりこの世の者ではなかった。であるならば、説得することが相手に通じる筈はなかった。『もの』の想いは一途なのだ。一途すぎるため、その想いは容易に暴走する。それを止めるためには『もの』を滅する他はない。だが、そいつがどこにいるのかはわからなかった。
それに、今ここを離れるわけにはいかなかった。目の前には『紅い菊』がいる。それは容易に暴走し、危害を加える存在だと幼い頃から頭の中に叩き込まれてきた。『紅い菊』は滅しなければならない存在。それが自分に課された使命だと思ってきた。
だが、それが今は揺らいでいる。
あっては欲しくない事実が目の前にあった。『紅い菊』が美鈴でなければよいと願ってきた。しかしその想いは簡単に裏切られてしまった。
自分は幼い頃から一緒にいた美鈴を滅しなければならなくなった。それは逃げ出したくなる現実だった。
それぞれが、それぞれの思いを巡らせていた頃、義男の言葉が静かにその場に流れていった。
「やっぱり俺は屋上に行く。この連鎖を止められるのは俺しかいないのだから…」
その言葉は静かに佐枝の心に染み込んでいった。