秘めた想い~紅い菊の伝説2~
屋上…。
透明な風が北から吹き込んでくる。
鍵で閉鎖され、高いフェンスに囲まれたそこには人の姿はなかった。誰もいない屋上は一面灰色の世界で嫌に寒々としていた。
誰もいない場所…。
屋上に通じる扉には堅く鍵がかけられている。ここから外にでることはできない。声は問題はないといっていたが、どうするつもりなのだろうか…。
鍵のかかった扉を前にして義男はそう思った。相手はどう出るつもりなのか…。
そこには義男のほかに誰もいなかった。彼が誰も寄せ付けなかったのだ。勿論、さえたちは彼を止めた。止めはしたのだが、彼はそれを振り払った。誰一人巻き込みたくはなかったからだった。
だから走った。
走れば佐枝は追いつくことができないからだ。
だから走った。
無理矢理にでも止めようとする啓介を殴り飛ばして。
だから走った。
この連鎖を止めるために。
しかし扉は閉ざされている。
約束の場所はすぐ傍なのに、扉一枚がそれを拒んでいる。
この先どうしろというのだ。
義男は瞳に悔しさを滲ませて扉を閉ざしている鍵を睨み付けた。すると鍵は紅い光を放ちながら焼け落ちていき、静かに扉が開かれていった。
『さあ、おいで。『私の杉山君』』
それは少女の声だった。
『さあ、後ろの人たちも…』
振り返るとそこには佐枝達の姿があった。
彼らの目は生きていた。
正体のわからないものに対する怯えは微塵も感じられなかった。恐らくは怖いはずなのだ。自分でさえも怖いと感じている。それでも佐枝達はそれを表に出すまいとしていた。
自分だけが怯えているわけにはいかない。
義男は肝を据えて扉の向こうに歩み出した。『そう、ゆっくり、ゆっくりと歩いてきなさい。もうすぐ私だけのものにしてあげるから…』
少女の声は喜びに満ちて義男を誘っている。 その声を美佳はどこかで聞いていた気がした。聞き覚えのある声、いつも近くにいた声…。そう、いつも傍にいた声…。
結城理恵の声。
「理恵、何で…」
美佳は声のする方に向かって呟いた。
『どうやらやっと気づいたようだな」
少女の声は次第に現実の理恵の声に変わっていく。そして何もない空間にその姿を現した。
その姿は結城理恵そのものだった。
いつも美佳の傍にいて、義男に告白することを勧めていた理恵そのものだった。
「なんであんたが佐伯さんや紺野さんを傷つけるの?。あれほど杉山君に告白するように仕向けていたあんたが…」
「あれは、フェイクだ。私の偽物にお前を仕立て上げるためだ」
理恵はしらっと言いのけた。
「お前は『私の杉山君』に気があった。他にもそんな奴が何人かいた。私はお前の気を利用して邪魔者達を片付けようとした。呪いの噂を流し、お前にそれを擦り付けてやろうとしたのさ」
「何のために」
「お前のその自信に満ちた鼻をへし折ってやるためさ。『私の杉山君』を手に入れながらね」
結城理恵は嗤っていた。
嗤いながら立ち尽くす義男の首にその手を絡ませていった。
「彼は今日から私もの。そしてあんたはここで呪いの首謀者になる…」
理恵の目は義男の瞳をとらえる。
その常軌を逸した視線は義男の目を逃さない。
「そこにいるお仲間がそれを証明してくれる…」
理恵はそこにいる一人一人の視線をとらえていく。そして彼女に見つめられた者は次々と意識を失っていく。
一通り辺りを舐め回した後、理恵は再び義男を見つめた。
義男の目は焦点が合っていなかった。
「さあ杉山君、誰にも邪魔されないところに行きましょう」
理恵はそう言うと強い念を送って屋上を取り巻いているフェンスの一部を突き破った。
義男は理恵に導かれてフェンスの破れ目に歩いて行く。そしてそれを超えようとしたとき、外側から紅い塊が現れ、義男の身体を突き飛ばした。同時に青い光を翳した人影が義男と理恵の間に割って入った。
透明な風が北から吹き込んでくる。
鍵で閉鎖され、高いフェンスに囲まれたそこには人の姿はなかった。誰もいない屋上は一面灰色の世界で嫌に寒々としていた。
誰もいない場所…。
屋上に通じる扉には堅く鍵がかけられている。ここから外にでることはできない。声は問題はないといっていたが、どうするつもりなのだろうか…。
鍵のかかった扉を前にして義男はそう思った。相手はどう出るつもりなのか…。
そこには義男のほかに誰もいなかった。彼が誰も寄せ付けなかったのだ。勿論、さえたちは彼を止めた。止めはしたのだが、彼はそれを振り払った。誰一人巻き込みたくはなかったからだった。
だから走った。
走れば佐枝は追いつくことができないからだ。
だから走った。
無理矢理にでも止めようとする啓介を殴り飛ばして。
だから走った。
この連鎖を止めるために。
しかし扉は閉ざされている。
約束の場所はすぐ傍なのに、扉一枚がそれを拒んでいる。
この先どうしろというのだ。
義男は瞳に悔しさを滲ませて扉を閉ざしている鍵を睨み付けた。すると鍵は紅い光を放ちながら焼け落ちていき、静かに扉が開かれていった。
『さあ、おいで。『私の杉山君』』
それは少女の声だった。
『さあ、後ろの人たちも…』
振り返るとそこには佐枝達の姿があった。
彼らの目は生きていた。
正体のわからないものに対する怯えは微塵も感じられなかった。恐らくは怖いはずなのだ。自分でさえも怖いと感じている。それでも佐枝達はそれを表に出すまいとしていた。
自分だけが怯えているわけにはいかない。
義男は肝を据えて扉の向こうに歩み出した。『そう、ゆっくり、ゆっくりと歩いてきなさい。もうすぐ私だけのものにしてあげるから…』
少女の声は喜びに満ちて義男を誘っている。 その声を美佳はどこかで聞いていた気がした。聞き覚えのある声、いつも近くにいた声…。そう、いつも傍にいた声…。
結城理恵の声。
「理恵、何で…」
美佳は声のする方に向かって呟いた。
『どうやらやっと気づいたようだな」
少女の声は次第に現実の理恵の声に変わっていく。そして何もない空間にその姿を現した。
その姿は結城理恵そのものだった。
いつも美佳の傍にいて、義男に告白することを勧めていた理恵そのものだった。
「なんであんたが佐伯さんや紺野さんを傷つけるの?。あれほど杉山君に告白するように仕向けていたあんたが…」
「あれは、フェイクだ。私の偽物にお前を仕立て上げるためだ」
理恵はしらっと言いのけた。
「お前は『私の杉山君』に気があった。他にもそんな奴が何人かいた。私はお前の気を利用して邪魔者達を片付けようとした。呪いの噂を流し、お前にそれを擦り付けてやろうとしたのさ」
「何のために」
「お前のその自信に満ちた鼻をへし折ってやるためさ。『私の杉山君』を手に入れながらね」
結城理恵は嗤っていた。
嗤いながら立ち尽くす義男の首にその手を絡ませていった。
「彼は今日から私もの。そしてあんたはここで呪いの首謀者になる…」
理恵の目は義男の瞳をとらえる。
その常軌を逸した視線は義男の目を逃さない。
「そこにいるお仲間がそれを証明してくれる…」
理恵はそこにいる一人一人の視線をとらえていく。そして彼女に見つめられた者は次々と意識を失っていく。
一通り辺りを舐め回した後、理恵は再び義男を見つめた。
義男の目は焦点が合っていなかった。
「さあ杉山君、誰にも邪魔されないところに行きましょう」
理恵はそう言うと強い念を送って屋上を取り巻いているフェンスの一部を突き破った。
義男は理恵に導かれてフェンスの破れ目に歩いて行く。そしてそれを超えようとしたとき、外側から紅い塊が現れ、義男の身体を突き飛ばした。同時に青い光を翳した人影が義男と理恵の間に割って入った。