-Believe- ~始まりの裁判~
19時45分 藍川法律事務所 RYUICHI ber
ガチャッ。
「成嶋くん、進んでる?」
ドアを開けて不機嫌そうに部屋に入ってきたのは、藍川法律事務所所長の藍川千尋(29)さんだった。
成嶋は急いで電話を切った。
千尋さんは普段はとても優しいのだが、その反面怒ると怖い。サボっているのがばれたらただでは済まないだろう。
成嶋は作り笑いをしながら、『進んでますよ、はは…。』と答えるのが精一杯だった。
すると、何がおかしいのか千尋さんは突然笑いだした。
「えっ、えっ?」
「冗談よ、成嶋くん。
そんな電話ごときで怒らないし、今更あなたがとても真面目に仕事をこなしてたら怖いわよ。
電話の相手、もしかして光咲ちゃん?」
「えっ?!
…えっ、あっ、はい。そうです!」
予想外の展開に戸惑いつつもそう答えると、成嶋のアシスタントの宮里麻衣(20)ちゃんが横から話に割り込んできた。
「光咲ちゃんって、りゅーくんのいとこだったよね?
ていうか、暇さえあれば電話って、もしかしてりゅーくんってロリ…」
「ちがうよ!なんでそそ、そうなるのさ!」
「成嶋くん、焦りすぎよ。まさか本当に…」
「違いますっ!千尋さんまで言わないでください!」
「えへへっ、冗談だよ。ジョーダン!
りゅーくんは冗談が通じないなぁ~!
あっ、そうだ。千尋さん!」
麻衣ちゃんはからかうように笑うと、机からポスターを取り出した。
「じゃじゃーん!ポスター兼チラシなんですけど。
…どうですか?」
麻衣ちゃんが恐る恐る千尋さんに尋ねる。
千尋さんは嬉しそうに、
「麻衣ちゃん、すごいじゃないっ!上出来よ。
麻衣ちゃんに頼んで正解だったわ!」
と、麻衣ちゃんを誉めた。
成嶋は『僕には誉めたことほとんどないのに…。』とちょっぴり妬けたが、千尋さんが誉めるのも当然だった。
『藍川法律事務所』と筆で上手にかかれた文字の回りに、写真が分かりやすく載っていて、思わず目をひいてしまう。
こういうのを作るのが苦手な成嶋は、羨ましい限りだ。
「へっへーん!
私はいつもサボってるりゅーくんとは違いますからっ♪」
「はいはい…。」
そう返事しておきながらも、自分が何もしていないことに恥ずかしくなり、成嶋は仕事に戻った。