If.~魂の拠所~
序章.死せる者達
ふわりふわりと、自分の体が空中を浮遊しているような感覚に少女は目を覚ました。
何かの錯覚だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
少女の足は、確かに地面に届いてはいなかった。
「……わぁ」
不思議だった、だって自分はただの人間なのに。
人間は空など飛べないのだ。
実際は飛んでいるというより浮いているという高さだが、人間は決して浮く事も出来ない。
小さな村で生まれ、平凡に暮らしてここまで成長しただけの自分が、こんな事になってしまっていいのだろうかと思ってしまうが、まぁいいかと心の中で呟いた。
こんな経験、二度と出来ないだろう。
だったら、楽しむに越した事はない、非日常を楽しむくらい許される筈だ。
体は思っていたよりもちゃんと言う事を聞いてくれた。
もっと高くに行ってみたいと思えばそうなったし、下がりたいと思えばまた、そうなった。
ただ、地に降りる事だけは出来なかったが。
「あ、ここ……真っ直ぐ行ったら村だ」
最初は全く知らない場所に居たと思っていたが、そんな事もなかったらしい。
既に今居る場所は見知っている、真っ直ぐ行けば生まれ育った馴染みの村だ。
何かに引かれる様に、自然的にそちらにふわり飛んでいく。
途端に、後頭部にずきりと小さな痛みが奔った。
「いた……」
思わず痛んだ箇所を押さえてしまう。
確かな痛みを感じるが、ほんの小さな痛みだ、我慢出来ない程ではない。
我慢しながら、少女は村に向かって移動した。
木々の間の整備された道を進んでいくうちに、後頭部の痛みがより確かなものに変わった。
小石を当てられるようだった痛みが、何かで殴られるような酷い鈍痛に。
その場にしゃがみ込みたくなる衝動に駆られるが、それは許されなかった。
強い力に引かれる様にして、少女の体は勝手に移動を続ける。
嫌だ、と思った。