If.~魂の拠所~
これ以上、近寄りたくない。
行きたくないと強く感じる、危険信号が頭の中で鳴り響いて止まらない、それなのに体は勝手に進んでいく。
制御なんて、さっぱり出来なかった。
急に怖くなって足掻いてみるが、止まらない。
木々の隙間を抜けた辺りで、ふっと頭痛が消え去った。
「……あ」
その先の光景を目にして、少女の瞳が潤んだ。
薄く張った膜はやがて水滴になり、白い頬を伝う。
胃の中を吐き出すような感覚を感じたが、何も出ては来なかった。
前方で、目の前で、木造の家屋が燃えている。
赤々と燃え盛る炎は休む事も鎮まる事もないように見える、それ程に勢いづいていた。
その家屋の周りに集まっているのは、見知った顔ばかり。
よく遊んだ友達、その家族、隣の野菜売りのおばさん、足の悪いおじいさん。
見たくない、知りたくない。
そうは思っても、もう少女の体に自由はなかった、指先の少しも動かせない。
ただ、壊れたように瞳から流れる滴をそのままに見つめるだけだ。
炎に一番近い場所で、一人の女性が泣き叫んでいた。
燃え盛る赤の中に飛び込まん勢いだ、それを青年が必死になって止めている。
その横では、まだ幼い少年が呆然と地面にへたり込んでいて。
「レーテ!」
びくりと、少女の肩が跳ねた。
「やめろ、やめてくれ!母さん」
「レーティア……レーテが、あの子がまだ中に居るのよ、まだ…!」
「分かってるよ、でも行ったら母さんまで助からなくなる!」
抱きとめるようにして、青年は女性の自由を奪っている。
泣きじゃくる女性、泣きそうな青年、無表情な少年。
見覚えがある、知っている。
知らない筈がない、知り過ぎている。