If.~魂の拠所~
「か、母さん……兄さん、ヘイト……」
毎日のように顔を合わせていた家族を、忘れる筈がないじゃないか。
本当に座り込んでしまいたい、頭が混乱してずきずき痛む。
我が家が燃えている、そして家族が泣いている。
母親が叫んだ名前は少女のものだった。
――レーティアは、わたしの名前だ。
「何で……」
レーティアは、炎の中に居るとでも言うのか。
確かにここからみんなを見ているのに。
「母さん……わたし、ここに居るよ。母さん、わたし燃えてないよ」
「レーテ、レーテ!」
「母さん!」
必死に声を張り上げてみるが、届いていない。
母親も兄も弟も気が付かない、ただ絶望を宿した瞳で炎を見据えている。
考えたくない。
もし、わたしの体があそこにあるとして。
わたしが煙に包まれたり炎に焼かれたのだとして。
わたしがもし、あそこで死んだのだとして。
何故わたしがここに居る?
考えられる答えなんて、ひとつしかないではないか。
「……やだ」
死にたくない。
声にならない音が喉から絞り出された。
嫌だ。いやだ。イヤダ。
死にたくないなんて、当たり前だ。
ひとしきり叫んだ後で、少女の意識はぷつりと途切れた。