If.~魂の拠所~





「か、母さん……兄さん、ヘイト……」




毎日のように顔を合わせていた家族を、忘れる筈がないじゃないか。


本当に座り込んでしまいたい、頭が混乱してずきずき痛む。


我が家が燃えている、そして家族が泣いている。


母親が叫んだ名前は少女のものだった。


――レーティアは、わたしの名前だ。




「何で……」




レーティアは、炎の中に居るとでも言うのか。


確かにここからみんなを見ているのに。




「母さん……わたし、ここに居るよ。母さん、わたし燃えてないよ」


「レーテ、レーテ!」


「母さん!」




必死に声を張り上げてみるが、届いていない。


母親も兄も弟も気が付かない、ただ絶望を宿した瞳で炎を見据えている。


考えたくない。


もし、わたしの体があそこにあるとして。


わたしが煙に包まれたり炎に焼かれたのだとして。


わたしがもし、あそこで死んだのだとして。


何故わたしがここに居る?


考えられる答えなんて、ひとつしかないではないか。




「……やだ」




死にたくない。


声にならない音が喉から絞り出された。


嫌だ。いやだ。イヤダ。


死にたくないなんて、当たり前だ。


ひとしきり叫んだ後で、少女の意識はぷつりと途切れた。





< 3 / 9 >

この作品をシェア

pagetop