If.~魂の拠所~
「生存者は本当に居なさそうだな」
ジュードの押し殺したような声に、サンドラが頷いた。
戸口から覗いていたのは、明らかに生気を失った人間の腕。
考えなくても分かる。
――あの肉体の中に、もう魂は無い。
乱れた精神を落ち着けるように一度だけ深呼吸をして、ジュードは家屋を見据えた。
「入るぞ、まぁ見た通りだがあそこに全てあるだろう」
「じゃあリーチェ呼ばないとね」
「ああ」
一瞬、サンドラの瞳が陰った様な気がした。
「ここで、沢山の人が死んだのですね」
淡く緑がかった金髪が、どこか悲しげに揺れている。
焼け焦げた肉片の傍らにそっと跪いたリーチェの利き手には、村のどこかで手折ってきたのだろう野花が握られていた。
様々な色の花をぱっと放し遺体の上に散らせてから、目を伏せて両の手を合わせている。
サンドラもジュードも、心の中で悔やんだ。
家屋に一歩足を踏み入れてからは、それはもう悲惨だった。
壁や床は乾いてどす黒く変色した血が飛び散り、人間の遺体は形を残してもいない。
さほど広くもない家屋の中には、死の臭いが充満していた。
「何があったんだろうねぇ、ここで」
「さぁな、人間の魂に異変が出たとしか報告されていない」
「じゃあ、やっぱりこれは人間の仕業なんだと認めざるを得ないね」
「獣がやったとでも?」
そんなつもりはなかったのだが、言葉に棘や嘲りが含まれてしまった。
吐き出した本人より先にジュードの苛つきに気が付いたサンドラが、微笑んで肩を竦める。