【短】おまじない
「そういえば、洋子ちゃんは?」

805号室は二人部屋。

ついこの間までは中学生の洋子ちゃんがベッドを並べていた。

「洋子ちゃん、退院したの」

「え…」

おめでとうとは言えなかった。

洋子ちゃんが不治の病とされる難病をわずらっていたことを望は知っていたから。

「違うの、望」

和が、はっとした顔で続ける。

「信じられないかも知れないけど、洋子ちゃん治ったんだよ」



望は思わず母の顔を見てしまった。

もしかしたら和のために洋子ちゃんは治ったってことにしているのではないかと思ったから。
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