【完】甘い生活~危険な幼なじみに溺愛されて~【上】p356まで加筆済
逃げ出したら、後が辛いだけなのに。
そんなことをただひたすら考えて、後悔してた。
ああすれば良かった、こうすれば良かった、なんて、そんなの言ったって仕方がない事くらい、わかってるのに。
その時。
「すまん!無事か──って、恋那やんか」
上から降ってきたのは、聞き覚えのある、陽気な声で。
私は声の主を見上げて、ポツリとその名を紡いだ。
「朝田君………… 」
私の呟きに、朝田君がにこって笑って右手を差しのべてくる。
相変わらずの眩しい笑顔が、今は眩しすぎて、直視出来なかった。
「すまんな、ぶつかってもーて。前見てなかったんや。ボーッとしてたらアカンよな。ほれ、掴まりぃ」
差しのべられた手に、そっと自分の手を重ねる。
「ありがとう……」
こんなとき、助けられるのはいつもこの笑顔だ。──光弥の笑顔とは、違う。
それが少し、虚しかった。