純血のヴァンパイア
――――病室の廊下――――――

「優月ちゃん。最近、来なくなったわね~。」

燐と麻子さんが雪兎に聞こえないように

廊下で話をしていた。

「ゴメンね。優、最近忙しいみたいで。麻子さん、寂しいの?」

「うん。私もそうだけど…たぶん、雪兎君も…」

病室の中では、雪兎が窓の外をジッと見つめていた。


「雪兎、何か思い出したの?」

燐の問いに、麻子さんは首を横に振った。

「でも、時々変な事を呟いてるのよ。」

「どんな?」

「“桜の匂い”とか“月”とか。ねぇ、変でしょう?」

桜なんて咲いていないのにね、と小さく笑った。

でも、燐はその時ハッとした。

桜……優月と初めて会った夜。桜が咲いていた。

その時の記憶が、戻ってきたのかもしれない、と。
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