帰らない二人―彼の鍵―

気付いたら北中さんの目が開いていて、また私の手を掴まれたものだから声が出てしまった。


「降りるぞ」


まるで初めから屋上《ここ》に来る予定だったかのように、そう言って私を引き、降りた。


屋上に足を踏み入れるのは初めて。

当たり前だけどいつもは鍵がかかってるはずだし。


でも今はなんでかわからないけど簡単に扉は開いて私達は陽の落ちる寸前の空の元へと出ることが出来た。


「うわ・・・すごい・・」
「・・・ああ、風が気持ちぃな」


どうしてこんな流れになったか、とかそういう疑問がこの時全部吹き飛んで、私は初めて見下ろす自分の働く町並みの景色に圧倒されていた。


「・・・寝てるんですか」


空を仰ぐようにしてまた目を閉じている北中さんに私は尋ねた。


「・・・・・・寝てねぇ」
「・・・酔っぱらってもうダメなのかと思いました」


なんとなく。
ただ、なんとなくそんな嫌味を言ってみた。

この柔らかな光の空に後を押されて。
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