帰らない二人―彼の鍵―
すると、既に数メートル先にいた彼、北中圭《きたなかけい》はピタリと止まって振り向くと、つかつかと受付に座る私の元へと戻ってきた。
そして―――
「ハイハイ。明日、忘れてなかったらな!」
嫌味ったらしい笑顔を私に近づけてそう言った。
私はというと、先輩でもある北中さんにそれ以上なにか言える筈もなく。
ただ近すぎる距離に顔を赤くして口をパクパクさせるだけ。
「・・・ちくしょう」
北中さんがまた背を向けて声の届かない所まで行ったのを確認してから小さく呟いた。
狡い。
反則だ。
だって、あの手でこのKEYを私に投げて、あの顔で近づいて、あの声で話し掛けられたら。
この動悸を抑えるだけで必死になって、何も言えなくなるのは当然じゃない。