帰らない二人―彼の鍵―



「あ···えぇと、」
「なんか俺がどーの、とか言ってなかったか、佐々」


私は横井さんに向き合っていて気付かなかったけど、その声に驚いて振り向くと真後ろに北中さんが立っていて悲鳴を上げてしまうんじゃないかって位驚いた。


「きっ····たなか、さん··」


悲鳴を上げられなかったのは、北中さんの顔が近すぎて。
悲鳴はおろかその声を出すのもやっと。


「陰で悪口でも言ってたかぁ?佐々のくせに」
「わ、悪口じゃ···!」


しまった!

若干悪口だったかもしれないけど、こんな否定の仕方だと北中さんの話題だったこと認めてしまってるじゃない!


と、後悔しても時すでに遅し。


「あぁ?上等だ。新年明ける前に言いたいこと言ってもらおうじゃねぇか」
「ちょ、北中、あんまり絡むなよ。佐々さん困ってるだろ」


酔ってるからなのか、いつも以上に上から目線の北中さんに、横井さんが止めに入った。


「ああ。横井。店長が呼んでたんだった」
「え··?ああ、そう。わかった」


北中さんは思い出したように横井さんにそういうと、横井さんは渋々その場を離れて輪の中心にいる店長の所へと向かって行った。

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