焼け木杭に火はつくか?
良太郎が訪ねてくることが判っているときは、よほどのことがない限り、聡は良太郎の指定席を空けておいてくれた。
聡の店で夕飯を済ませてから閉店を迎えるまでの時間、そこに持参したノートパソコンを広げて、仕事をしてしまうこともあるからだった。
宵の口あたりになると、仕事帰りにふらりと寄って、カウンター席に座りながら、聡を話し相手に酒を呑んでいる客も訪れる。
それでも、大抵、良太郎の指定席は空けられていた。
その良太郎の指定席に座っている男の姿に物珍しさを感じながら、良太郎は今夜はここでいいやと夏海の隣に腰を下ろした。
そして、やっと夏海に感じた違和感の正体にも気付いた。
夏海の前には、すでに半分ほど中身を飲み干した、縦に長いビアーグラスが置いてあった。


うわっ
仕事の話をする前に。
呑んでるよ。
珍しいなあ。


そんなことを考えながら、本を広げ読んでいる夏海に「お疲れ様です」と良太郎は声をかけた。
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