焼け木杭に火はつくか?
今までも、仕事の話をするために、夜になってから夏海とこの店で会うことは何度かあった。
話が終われば、そのまま聡を巻き込んでの酒を呑むこともあったが、それはあくまでも話が終わってからだ。
仕事の話を始める前から、夏海がこんなふうに呑んでいるようなことは一度もなかった。
そういうところは生真面目すぎるほど、けじめをつけたがる人なのだ。
その人が、それでもすでに呑んでいるということに、良太郎は首を傾げた。


なんか。
あったのかな?


なんとなく、いつもと違う雰囲気が漂う店内に良太郎は眉間に縦皺を刻んだが、聡がいつもと変わらない涼しい顔で皿を拭いていたので、気を取り直したように夏海に話しかけた。

「とりあえず、こんな感じなんですけどね」

書き上げてきた小説をプリントアウトしてきた紙の束を、良太郎は夏海に差し出した。

「西島に読ませなさいよ」

面倒ねと言いながら、それでも、夏海は目を輝かせて、原稿を手に取った。

「英吾じゃ、十行も読まないうちに寝ちゃいますよ。間違いなく」

夏海の言葉に、あははと笑いながら続けた良太郎の言葉に、夏海は肩を落とすようにうなだれた。
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