焼け木杭に火はつくか?
男に話しかけるきっかけを失った良太郎は、また聡をぼんやりと眺めた。

ほどなくして、夏海が原稿を読み終えた気配に、良太郎は夏海を見た。

何か、引っかかるところがあったのか。
夏海は少しばかり、良太郎がこれまで見たことないような奇妙な顔つきをしていた。


怒っている?
困っている?
なんだ、この顔?


良太郎は判断しかねて、右手で襟足を掻き毟った。

「パン屋にした理由は?」
「え?」

夏海からの唐突な質問に、良太郎は眉を潜めて、口ごもった。

「別れた恋人が、パン屋っていう設定は、なんか意味あるの?」
「パン屋の特集号って聞いたからですけど、……問題あります?」

怒っているというわけではないようだ。
けれど、夏海からは理由の判らない不機嫌さが漂ってきた。


何か。
地雷踏んだのか、俺?

内心では冷や汗をかく思いで焦りまくりながら、そんな夏海を見て、それから助けを求めるように聡を見た。
しかし、聡はそんな夏海の気配などにはまったく気付いていないように、カウンターの中で忙しなく働き続けていた。
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