焼け木杭に火はつくか？
「……問題ないわ。大丈夫」

一呼吸置いて、そう答えた夏海は、聡を睨みつけながら言葉を続けた。

「ひょっとしたら、誰かの差し金で、パン屋にしたのかしらと思っただけよ」

『誰かの差し金』という部分をやけに強調した夏海のその言葉の意味が判らず、良太郎は眉を寄せて考え込んだ。


差し金って。
なんのことだ？


誰かが指しているのは聡のことだと、夏海の視線から良太郎も理解した。
けれど、差し金の意味が判らなかった。
確かに、アイデアを出したのは聡とも言える。
パン屋の特集なら、パン屋を舞台にしたらどうだと、そんな案を出したのは聡だった。
しかし、無理やりそういう方向に話を持っていこうとしていたような強引さは全くなかった。
あの時の聡は、本当に単なる思い付きを口にしただけにしか思えない。
差し金と言うには、あまりにも自然で、単純な話の流れだった。夏海を不機嫌にさせるような企みあったようには思えなかった。
また、眉間に深い縦皺を作り考え込む良太郎の隣で、夏海はおもむろに赤いボールペンを出し原稿に何かを書き始めた。
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