焼け木杭に火はつくか?
「家でオイラが飲んでるのは、オイラが作ったやつだけど、店で出してんのは、酒屋で買ったやつだよ」
「そんなのズルいよ、サトルくんだけさ。店にもサトルくんが作ったやつ、出そうよ。飲みたいって」

ズルいズルいと言い喚く良太郎に、聡はうるせえなと言いながら、わざとらしく顔をしかめる。

「自家製の果実酒を店に出すのは、いろいろ面倒なんだよ」
「そうなの?」

意外な言葉に良太郎は、何度か瞬きを繰り返しながら聡を見た。

「税務署とかに、届け出さなきゃならねーし。帳簿とかもな。いろいろ面倒があるんだよ」
「へえ。ああ、そうか。酒だもんね。税務署も絡むのか。酒税法とかの関係で」

初めて知った事実に、心底感心している良太郎を尻目に、聡は手際よく紙袋の中からベーグルを出して食べやすい大きさに切り分けると皿にのせ、2種類のジャムを添えて良太郎に出した。

「こっちが梅で、こっちが杏な」

ジャムを指差して良太郎にそう説明すると、聡は唐突に、良太郎の右側、良太郎の指定席に座っている男に目を向けた。
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