焼け木杭に火はつくか?
「母が、近くに美味しいベーグル屋さんができたって喜んでます。俺もこの間、黒ゴマのベーグルを食べたんですけど、ずっしりしてて、もっちりしてて、驚きました。美味しかったです。昔、食べたベーグルが、なんかパサパサしてて食べ辛くて、それからちょっと苦手だったんです、ベーグルって。だから、ベーグルってホントはこういうものなんだって、驚いちゃいました」

つらつらと続く良太郎の言葉に、長谷が相好を崩して笑った。
笑うと眦にくしゃりと皺が刻まれた顔には、子どものような無邪気さがあった。
それは良かったと言うその穏やかな声には、嬉しさがたっぷりと含まれていた。

「そう言って貰えると、作った甲斐があります。小野さん。俺にもサラダとベーグルいいですか? お手製のジャム、食べてみたいんで」
「はい。すぐ、用意しますね」

長谷に笑顔でそう頷いて見せると、聡は言葉どおりに手際良くサラダを作り始めた。「でも、ベーグル専門のパン屋さんって、このあたりしゃ珍しいですよね」

第一印象よりも案外喋りやすい人物だと判った良太郎は、作業に集中してしまった聡の代わりと言うかのように、長谷に話しかけ続けた。
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