焼け木杭に火はつくか?
「なんか、ベーグルにこだわりみたいなものがあるんですか?」

良太郎の問いかけに長谷は苦笑いを浮かべつつ、口を開いた。
「こだわりというか」

そこまで言って言葉を切った長谷は、わずかな躊躇を見せたあと、静かに言葉を続けた。

「パン屋になろうという気持ちを持たせてくれたパンなんですよ」

背中を後押ししてくれたって言うか、人生を変えるきっかけをもたらしたのがベーグルなんですと言う長谷の言葉に、なるほどと頷く良太郎の隣では、夏海が顔を強ばらせていた。
聡の目がちらりとそんな夏海を捕らえたが、何も言わず、サラダの盛り付けた皿に切り分けたベーグルをのせた。
梅ジャムドレッシングを掛けたサラダと、ベーグル、二種類のジャムを乗せた皿を二人分用意して、一皿は長谷の前に、もう一皿は夏海の前に置いた。

「夏海さんも、少し食べたほうがいいですよ。オムレツ、作りますか? すきっ腹にビールだけじゃね」

聡が夏海にそう話しかけたことで、良太郎はこそりと夏海を窺い見た。
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