焼け木杭に火はつくか?
「パン屋になりたくて、それまでの生活全部捨てて、しかも恋人の都合お構いなしに俺に付いて来いって言った男と、結婚したら専業主婦になって、キラキラした爪で毎日おしゃれに暮らしたいわなんて思っていたのに、その夢を木っ端微塵に砕かれて、ふざけんなって肘鉄食らわして捨てた女の三年後の話」

良太郎が問いかけるより早く、夏海が聡の質問に答えた。
その説明に、へえと聡は言いながら、口元には微妙な笑みが浮かんでいた。
夏海の言葉は続く。

「男は夢を叶えてパン屋になって、しかも側には、一緒に朝から晩までキリキリ働いているのに、とっても幸せそうな顔をしている奥さんがいて。でも女は未だ1人者。結婚したら、のんびり気ままな専業主婦ライフなんて夢すら見せてくれる男もいない」

間違ってはいないが、やけに辛辣な言い方に、良太郎は次第に怪訝な顔になっていく。

「夢を叶えて素敵な人と暮らしている男に、ふざけんなよ、このやろうって、復讐を決意すんのよ」
「はあっ?! ちょぉっと、待ってくださいね」

慌てふためきながら、良太郎はいやいやそんな話では断じてないですと言葉を連ねた。
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