焼け木杭に火はつくか?
「夏海さん、聞いてよ。良太郎、仕事バリバリやってる彼女に、仕事辞めてこっちに来いみたいにこと言って、怒らせてダメになっちまったんだって」
「サ、サトルくんっ それは言わない話っ」

良太郎は慌てふためいた。


何を突然言い出すんだ、この人は。
よりにもよって。
こんな人に。


目を見開いて固まった良太郎に、聡はにやりと笑い、鼻歌交じりで「俺もなんか飲むかな」と言いながら、冷蔵庫を漁り始めた。
良太郎の言葉に反応して、何故か、じろりと睨みつけてくる夏海のその視線に、良太郎を突き殺しそうな殺意まで感じ取り、逃げ出したいような気持ちに駆られた。

「良太郎。あんた、そんなこと彼女言ったの?」

夏海の抑揚の無いのっぺりとした声が、ますます良太郎を凍りつかせた。


なんで。
この人。
こんな怒ってるんだ?
つーか。
サトルくんっ
助けろよっ


引き攣った顔で夏海と聡を交互に見ながら、良太郎は氷点下の冷気をまとう夏海に、必至に言い訳の言葉を並べ聞かせた。
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