焼け木杭に火はつくか?
その夜、良太郎は父親に連絡を入れた。
良太郎の想像では、道代は信二にも何も知らせていないと思われたからだった。
案の定、信二は何も聞いていなかった。
良太郎の想像通り、夫や息子を心配を掛けたくないと考えた道代は、信二にも何も告げていなかった。
けれど、滅多に電話など掛けてこない息子からのその電話に、信二は何かあったことをすぐに察したらしい。
良太郎が用件を切り出すよりも早く「母さんに何かあったのか?」と心配げに尋ね、良太郎を驚かせた。

『そんなことでもなければ、お前が電話してくることなどないだろう』

そう言われてしまうと、良太郎はその通りだと頷くしかなく、強盗の話しを切り出した。
信二は息子の話を聞いて、真っ先に一人家に残している妻の身を案じ、その無事を確認して安堵のため息を零した。
そんな父親に、良太郎は家に戻ることを告げた。
東京でなければできないという仕事ではない。地方在住で活躍している同業の先輩はたくさんいる。
ましてや、良太郎の実家は、電車に乗れば2時間ほどで都内に出られる場所にある。
東京にこだわる理由はなかった。
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