焼け木杭に火はつくか?
「夏海さんと会うこと、電話で言わねーし。夜行くから、店開いておいてしか言わなかっただろうが」

当然、降りかかってきた火の粉に、良太郎は目をぱちくりと瞬かせ、まるで、お前が悪いとでも言いたげな口振りに、八つ当たりにもほどがあるだろうと、良太郎は頭を垂れた。

「わざわざ言うことでも」

良太郎に最後まで言わせずに、聡は良太郎の言葉を遮った。

「いつも言うじゃねえか。夏海さんも行くからって。言わねえから、一人なんだろうなって」

聡のその指摘を受けて、言われてみればその通りだと気づいた良太郎は「ごめん。忘れてた」と素直に謝った。

「だから、いつもみたいに仕事が一段落ついたから飲みに来るんだろうなあって思ってたら、夏海さんが、ひょっこり来るし。良太郎と待ち合わせてるって。そんときは、もう、長谷さんはそこ座って飲みだしてたし」

やや、拗ねたような声でそう言う聡は、その矛先を良太郎から長谷と夏海に変えて、一気に溜まっていた不満を吐き出した。
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