焼け木杭に火はつくか?
大学を卒業した良太郎は地元には帰らず、都内に小さな部屋を借りて、そのまま東京で暮らし続けた。
就職することも考えたが、レンタルビデオ屋でのアルバイトと、文筆業で生活していこうと腹をくくったのは、大学三年から四年になる頃だった。
初めての雑誌連載の依頼が舞い込んできた。
それが、良太郎に覚悟を決めさせた。
定職にも就かないことを反対するのでは予想していた両親が、すんなりとそれに認めてくれたことも、良太郎の背中を押してくれた。


-ここから先のお前の人生は、お前が決めればいい。
-自分にも人にも恥ずかしくない生き方をしてくれれば、それでいい。


父親が贈ってくれたその言葉を、良太郎は深く胸に刻んだ。

良太郎は子どもの頃から、人を呆れさせるほど慎重すぎる傾向があった。
こうと覚悟を決めれば、それまでの及び腰丸出しのへたれぶりはなんだったのかと思うほど、途方もなく大胆になるのだが、その覚悟が決まるまでがため息がでるほど長すぎる。
亡くなった祖父はよくそう言って笑っていた。
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