焼け木杭に火はつくか？

「長谷さん、きっとまだ、夏海さんと繋がった縁は切れてねーって、信じてたんだよ。でなきゃ、来ねえよ。ここに。ここでわざわざパン屋なんて、始めねーって」

聡にしてま珍しく、少しだけ強い口調だった。
必死に、夏海を説き伏せようとしているように、良太郎には感じられた。

「オイラも、ここで客商売やってるから判るけど、商売やるのに向いてる場所じゃねーよ、ここは」

それは聡だからこそ言える言葉だった。
夏海にも良太郎にも、その苦労は測り知ることさえできない。
だからこそ、夏海も聡らしからぬお節介な言葉に、口を噤んで聞くしかなかった。

「でも、オイラには生まれ育った馴染みの場所だ。オイラを知っている人が、たくさんいる。だから、ここで店を始めようって決められた。でも、長谷は違う。知り合いもいなけりゃ、馴染むの場所でもねえ。それでも、ここを選んだんだ。夏海さんと繋がってる、ここに」

目を伏せて聡の言葉を聞いている夏海に、聡は優しい声で言い聞かせた。