焼け木杭に火はつくか?

(9)

時計の針は、とうに二十三時を過ぎていた。
店の中にはまだ二名の客が残っていたが、そんなことにはお構いなしと言わんばかりに、聡は店のドアに閉店を告げる札を下げた。
会話のない店内で、聡は淡々と明日の仕込みをしながら、グラスに注いだビールをちびりちびりと飲んでいた。

「サトルくん。俺、さっきサトルくんが飲んでたヤツ、欲しいな」

閉店時間を過ぎていることなど気にも留めず、冷めてしまったオムレツとサラダを平らげ、ベーグルを食べ始めた良太郎は、目の前でビールを飲み始めた聡に喉を鳴らし、自分のアルコールも催促した。

「さっき?」
「黒ビールをオレンジジュースで割ったやつ」
「んー。判った。夏海さんは?」

聡に名を呼ばれた夏海は、その声に物思いの淵から浮上したようだった。
組んだ腕を天井に向け伸ばし、背筋を伸ばすようにイスの背もたれ体重をかけ、身体を仰け反らせると、大きく息を吸い込んで盛大にそれを吐き出した。
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