焼け木杭に火はつくか?
しかし、空き巣の知らせに急ぎ家に駆けつけると、口では心配ないと気丈なことを言っている母親が、突然の小さな物音にも肩を震わせて、やや怯えたような顔をするのを見て、良太郎は迷うことなく、帰郷を決断した。


ここでも。
仕事はできる。
帰ろう。


空き巣の一件は、良太郎にそれを決意させた。
いつの間にか小さくなっていた母親の後ろ姿を見て、そう決意した。


のんびり屋の甘えん坊。
慎重すぎる臆病者。
でも、時々、暴れん坊。


子どもの頃から、両親を始め親戚一同皆が口を揃えて、良太郎をそう評していた。
それは否定できないし、特にのんびり屋の甘えん坊については、今でも現役張りで大活躍している性格だった。
そこに、時々、思い出したように、泣き虫も入る。

それでも、自分はこの家に生まれた、たった一人の息子だ。
両親にとっては、たった一人の息子だ。
それは十分自覚していたし、いずれは家に帰って、両親の面倒はみなければという気概くらいは持っていた。


六年前が家を出るべきときだったなら。
六年後の今このときが家に戻るときなんだ。


良太郎はそう感じた。



そして、三ヶ月ほど前に、良太郎は実家に戻った。
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