焼け木杭に火はつくか?
高校までは、実家から地元の学校に通っていた良太郎は、そろそろ親元を離れて生活してみたいという、その年頃の子どもらしい無鉄砲と無邪気が入り混じった欲求から、両親を説き伏せて都内の大学に進学した。

もっとも、すんなりと許されたわけではない。
思いがけずもそこそこに、説得に時間を要するていどの反対を受け手を焼いた。

父親の信二(しんじ)は、長年、機械設計の仕事をしている技術屋だ。
自身も大学入学を機に一人暮らしを始め、社会人になってからも、国内はもとより海外への赴任も多かったこともあり、打ち明けられた息子のその話を聞いて、自立するにはいい機会だろうと、すぐに理解を示してくれた。

だが、母親の道代(みちよ)は一筋縄ではいかなかった。

決して、一人息子を溺愛するあまり、子離れができない母親というわけではない。むしれ、未だに離れができない甘ったれ息子の座に居座っているのは、良太郎のほうだろう。
少しばかり土地を持っている地主の家で育ったお嬢様ということもあってか、道代はやや箱入り娘な一面もある母親だったが、息子が悪さをすれば落雷よりも響くと言われるような大声で良太郎をがつんと叱り飛ばして、拳骨を一つ、ゴツンと落すような母親だった。

それでも、やっぱり母親だった。
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