焼け木杭に火はつくか？
良太郎に幼なじみ特権を使って、この仕事をごり押ししてしまったという後ろめたさが、英吾にはあった。
それ故、あまり催促するような電話は入れなかったのだが、そろそろ書き上げてもらわなければならない今になっても、全く進んでいないという言葉に、つい取り乱してしまった。
執筆依頼をした後に、夏海から良太郎は短編が苦手なのだと聞かされていたが、その時はそれがどういうことなのか今ひとつ理解できなかった。
こういうことだったのかと、切れた電話に英吾は頭を抱えてしまった。
ここで良太郎を見つけるまでは、不安やら焦りやら怒りやら、いろんなものがない交ぜにとなっていた感情に支配されていたが、聡の大丈夫という言葉に、心がすうっと落ち着きを取り戻した。
英吾にとって聡は、子どもの頃から精神安定剤のような存在だった。
焦ってパニックを起こし始めている英吾を見ると、聡は側に寄ってきて、大丈夫だとそう言って英吾を落ち着かせてくれた。
大人になった今もその関係性はあまり変わらなかった。
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