焼け木杭に火はつくか?
「英吾。おメー、これからまた会社に戻るんだろ。なんか食っていくか?」

聡の言葉に英吾は気を取り直したように、いつもと変わらない元気な声に戻る。

「今日は直帰。昨日、徹夜だったんだ」

疲れたよと言うその声は、言葉とは裏腹に元気はつらつだ。

「そりゃ、お疲れさん」

しかし、元気な声でも英吾が疲れたと口にするときは本当に疲れているときだと判っている聡は、その労を労った。

「だから、取材終わったら、今日はあがるって言ってきた。ここの団地に、最近、パン屋さんできたでしょ。今まで、そこの取材してたの」

まくし立てるように喋り続ける英吾に、聡はああと頷いた。

「ベーグル屋さんな。……取材、夏海さんも行ったのか?」
「ううん。ウチ、今年から季刊誌始めたでしょ。県内の文化遺産とか中心に紹介するヤツ。社長、最近そっちがメインで、こっちの取材はほとんどしない」
「……そっか」

その言葉に何か考え込んだような顔になった聡を、英吾は首を傾げるようにして見た。
なんだろうと尋ねようと口を開きかけたとき、良太郎の声がそれを遮った。
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