紺碧の海 金色の砂漠
遠い親戚、学校の友だち、あるいは舞の出身校や知人というだけで、何かトラブルに巻き込んでしまったのだとしたら。それを確認したくても、連絡を取ることもできない。

するとヤイーシュは言い直した。


「失礼いたしました。何も起きてはおりませんし、アーイシャ様はどなたにも迷惑などかけておられません。――これでよろしいですか?」

「……」


思えば……砂漠でも振り回されっぱなしだった気がする。

“求婚”しながら妙に偉そうで、ああしろこうしろと半分脅しながら、うるさく命令ばかりしていた。舞は今でもあのプロポーズは本心じゃなかったと固く信じている。


(一回でいいからこの男を、わたしに向かって『参りました』と言わせてやりたいっ!)


舞が言えと命令したら言うのだろう……尊大な態度で。そういう奴だ。

ミシュアル国王には服従の態度を取るくせに、舞に対してはどこか違う。

シャムスが言うには、ヤイーシュは常日頃から『花嫁は絶対クアルン人!』と言っていたらしい。それから考えても、あのとき自分にふらっとさせて、舞を罠にはめるつもりだったとしか思えない。


「他に御用がないようでしたら、私はこれで」

「だったら、どこでそれほどの怪我をしたの? 全身に擦過傷と打撲があって、肋骨なんか三本も折れてるそうじゃない。まるで爆発で吹き飛ば……」

「交通事故です。大使館の車両が居眠りのトラックに衝突されました」

「あ、あのリムジンが?」


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