紺碧の海 金色の砂漠
――ターヒルの逮捕。

それは今朝、レイが外務省経由で受けた報告だった。


『だが、ターヒルに万一のことがあれば』

『たとえそうでも、彼女にできることは神に祈るだけです。それは今、聞かされたとしても同じこと』


厳しいようだが事実だろう。

レイが無言でいるとヤイーシュが続ける。


『ご心配には及びません。ミシュアル様が帰国されたのです。必ずや事態を収拾してくださいます。ターヒルは陛下とともに妻を迎えに来るでしょう。私はそう信じております』


バストバンドを装着して胸部を固定し、痛み止めの注射を打ってはいるが、医師からは昨夜も三十八度の発熱があったと報告を受けている。


『ミスター・キャラハン、君自身はどうだ? この警戒態勢を見て、充分に納得してもらえたと思うが。君も無茶をせず、ヴィラで静養にあたるべきだと私は思っている』

『お言葉、ありがたく。――私は以前、ミシュアル様に失礼な振る舞いをいたしました。それにも関わらず、今回、正妃様の警護を任せていただけて光栄に思っております。身命を賭して、アーイシャ様をお守りする所存です』

『だが、君に何かあればシャムスのように泣く者もいるだろう』


レイは何気なく尋ねたつもりだった。

しかし、予想以上にヤイーシュは狼狽し、


『そっ、そのような者は……私に妻はおりませんし、第一、妻はアズウォルド人と決めておりますので。日本にそのような……』


逆にレイのほうがどう答えてよいのかわからない。


『さあ、そろそろセルリアン島に戻ろうか。ミシュアルから、ターヒルを連れてクアルンを出発した、と連絡が入っているかもしれない』


レイはヤイーシュを促し、デッキに向かうのだった。


< 167 / 243 >

この作品をシェア

pagetop