紺碧の海 金色の砂漠
その声は、静かだが鬼気迫るものであった。


しんとした大広間に、カチカチと奇妙な音が広がる。ミシュアル国王に正面から睨まれ、歯の根が合わない近衛隊長の口元から発せられていた。

彼は酸欠の魚のようにパクパクと口を開きつつ、


『い、い、いえ。そ、そんな……そのような報告は受けておりません。リ、リドワーン殿下が……カイサル様のご命令とおっしゃり、ターヒル殿を連れてル、ル、ルシーアに……』
 

ミシュアルは少し考え、あらためてラシードに問いただした。


「シード。妻と娘は息災か?」


突然の日本語にラシードはハッとして顔を上げた。

その目にはくっきりと動揺が浮かんでいる。


「お気にかけていただき、恐れ入ります。ふたりとも妻の母であるサマン殿を訪ねておりまして……」
 

サマン王女が夫と別居し過ごしているのもルシーア地方にある別邸。

ラシードの答えを聞くなり、ミシュアルは命じた。


『ルシーアの宮殿に参る。ヘリを用意せよ!』 


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