紺碧の海 金色の砂漠
~*~*~*~*~


入国カウンターの職員の間で、ひとりの日本国籍を有する男性が話題になった同じ夜――

セルリアン島の国立リゾート・スパは闇に包まれていた。

時刻はすでに深夜、本館から数人の人影がヴィラの方角に小走りに向かう。

彼らの目指す方角にあるのはVIP専用のヴィラが立ち並ぶ一帯。
 

一軒のヴィラを取り囲むように、彼らは息をひそめた。

やがて、ひとりが何かを取り出し、カード認証システムに翳す。赤いランプがグリーンに変わり……それは、ロック解除の表示だった。



客のプライベートと安全を考慮して、屋外のみ二十四時間稼動という最強の防犯システムだ。ヴィラだけでなく、リゾート・スパの敷地全体にセンサーが網の目のように張り巡らされている。

――ということは、である。

前の晩、舞がこっそりヤイーシュのヴィラを訪ねようとしたことも警備室には筒抜けだったのだ。


ヤイーシュは事前に「妃殿下がヴィラを出られるようなときは、ただちに連絡を」と警備室に頼んでいた。

半信半疑の担当者だったが……。ヤイーシュはあらかじめ、舞を待ち構えていたことになるのだから、タイミングよく助けられて当然であろう。
 


扉は音もなく開いた。

正面玄関横にあるキー管理システムで、建物内のロックが一斉に解除される。カードを手に認証システムを突破した男がインカムに向かって小さな声で囁いた。

そこから漏れ聞こえてきたのは……。


< 175 / 243 >

この作品をシェア

pagetop