紺碧の海 金色の砂漠
ベッドから半身を起こしたのはヤイーシュだ。

もちろん、舞の姿はどこにもない。


『なぜ貴様がここにいる!?』

『異なことを。お前たちを捕まえるための罠に決まっておろう。なんのために、わざわざ妃殿下を島の外に連れ出したと思っている?』


舞がいなくなれば島の警備は手薄になる。そしてなるべく隙を作り、侵入者をこの島におびき寄せた。

当然、舞がこの島に戻ったはずがない。


ヤイーシュはゆっくりとベッドから下りた。髪を後ろで束ね、上半身は裸、下半身にはトーブの下に着用する白いズボンをはいている。足は裸足だ。

そして、武器らしき物は何も持っていなかった。

彼は侵入者の前で仁王立ちになり、


『顔を隠しているところを見ると、どうやら無事に逃げ出せると思っていたらしいな。愚か者が!』 


そう吐き捨てる。

ヤイーシュの怒声に、男は顔に巻いたグトラをはずした。


『やかましい! アメリカ人の血が混じった出来損ないのシークが! 貴様が王の側近など笑わせるな』


男は先日の爆破事件直後、本国から在日クアルン大使館に派遣されてきたひとりであった。

どうやら、彼らのパスポートや身分証は本物らしいが、本当に派遣されてきたわけではないようだ。

それらの手配はリドワーン王子にも可能だが……。


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