紺碧の海 金色の砂漠
『婚約者を裏切る行為は君らしくない。それに……見たものを見なかったことにするのは、非常に難しい』
 

それは十年前の件を仄めかした返事だった。

ミシュアルとて王の立場で譲るべきことは心得ている。だが、最初から容認するのは彼のムスリムとしての感情が許さなかった。


「言ったはずだ。婚約は最初から形式だけだった、と。日本との問題は円満に解決している。他国の君主が口を挟む問題ではない。そして……君が目にしたものは、次にティナと会うまでに忘れるんだ」

『……無茶を言うな』

『努力しろ。君ならできるよ――シーク・ミシュアル』


口元は微笑みを浮かべているが、アズルブルーの瞳が彼を睨んでいた。


今回のアズウォルド滞在はレイから声をかけられたものだ。

しかし、こちらにとっても渡りに船であったことは事実である。最悪の場合、今後、様々な頼みごとをしなければならない身となることも……。

ミシュアルは薄いアメリカンコーヒーに顔を顰めつつ、『ナアム《わかった》』と答えた。


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