紺碧の海 金色の砂漠
バカじゃないの? と言いかけて舞はやめた。

それがターヒルという男なのだ。彼ならきっと、殺されるとわかっていても、ミシュアル国王の命令とあれば戻るだろう。

シャムスは「ターヒルさまもすでに……」そう呟くと、再び泣き崩れた。そんな彼女の背後から、言い辛そうにヤイーシュが口を開き……。


「シャムス殿、気を確かに持って聞いて欲しい。実は昨日の朝、ターヒルが逮捕されたとの一報を受けた。私の判断で、あなたには伝えなかった」


舞の横でシャムスは息を止めた。

そんな彼女に代わって舞が尋ねる。


「ど、どうして? なんでそんな大事なこと黙ってるのよ!」

「彼女が知ってもできることは何もないからです。ならば……私がターヒルなら、妻に無用な心配は掛けたくない、と思うでしょう」


ヤイーシュの言葉は正しい。

アズウォルドに来てから、シャムスはずっと打ち沈んでいた。ターヒルが心配でならなかったのだろう。そんな彼女が“逮捕”なんて聞いたら、もっと悲しむに決まっている。

ターヒルだってそんなことを望んでいないのはよくわかる。

わかるけど……。


(それが男の理屈だって、なんでわかんないのよっ!)


< 198 / 243 >

この作品をシェア

pagetop