紺碧の海 金色の砂漠
どれだけ辛くても愛する人が窮地に陥っているのだ。知らないより、知っていたい。それが女心というものである。

ヤイーシュに怒鳴ってやりたい。

舞はそう思ったが……。主君や盟友の窮地に、一万二千キロも離れた異国の地にいる。しかも深い傷を負って。プラス、きっとヤイーシュにも『正妃を守れ』とか、ミシュアル国王が命令したことは容易に想像がつく。

苦悩に満ちた彼の横顔を見ていると、舞は怒鳴るに怒鳴れなくなった。
 

「えーっと。でも、それって……逮捕されたからって、すぐにどうこうされるってわけじゃないわよね?」

「もちろんです。通常であれば公正な捜査がなされ、裁判となるはずです。しかし、ヘリ墜落の件といい……。残念ながら、今のクアルン王国の法律は、新しい権力者の手に委ねられていると見るべきでしょう」

「ちょっと待ってよ、ヤイーシュ! 新しい権力者って……シャムス!」
 

舞がヤイーシュの言葉に噛み付こうとしたとき、シャムスが床に倒れこんだ。とうとう、神経が持たなかったらしい。

彼女たちが話をしているのは、王宮内の舞に与えられた部屋の一室。

気を利かせて外に待機している女官たちを呼び、シャムスを奥の寝室で寝かせてもらうように頼む。


「私も陛下の死を信じてなどいません。ですが、簒奪者が存在することは紛れもない事実! ならば、戦うのみです」


ヤイーシュの青い瞳は怒りに燃え、血走っていた。

沈着に見える彼だが、実はかなりホットな性格なのかもしれない。そう思うと、舞はカッと頭に昇っていた血がスーッと下がっていく。


「戦うって。ねぇヤイーシュ、ちょっと落ちつき――」

『具体的な策はあるのか?』


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