紺碧の海 金色の砂漠
「でも、ミシュアル陛下は私をお認めじゃないようだから……」


――舞がティナの事件を聞いたのはこのときが初めてだった。


事件が起こったとき、舞は十歳くらいだ。しかも海外の事件、表向きはティナの父親が握りつぶした事件なので、舞の耳に入るはずがない。


「そんなの! ティナのせいじゃないでしょう? アルが認める認めないってものじゃ」
 

しかし、あの純潔至上主義の頑固者である。

イスラムの教義とクアルンの法律から言えば、犯人は確実に首を刎ねられるだろう。と同時に、女性の名誉も地に落ちる。



クアルンの法律では同意の下でなくても、処女を奪われたらその相手と結婚することになるのだ。

男が父親を説き伏せ、夜這いをかけたら……女性側がどれだけ抵抗しても妻にならざるを得ない。悔しくてもそれが現実だった。

純潔を失えば花嫁衣裳を着る資格もなくなる。まともな独身男性には求婚してもらえず、寡婦のような扱いで、人知れず父親の決めた相手の家に送り届けられるという。

こればかりは女性側というより、男性側の意識を変えなければどうにもならない。

意中の女性であっても、親の目を盗んで男性と付き合っていたことが明らかになった場合、多くの男性は求婚を取り消すのだという。

体の関係はない、と言っても同じらしい。疑わしい行動を取っただけで“ふしだら”呼ばわりだ。

それでも愛を貫いたラシード王子のような男性は“クアルンの奇跡”とも言えよう。


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