紺碧の海 金色の砂漠
たしか『産油国であるクアルンと友好条約を結ぶ必要があった』とか『国際問題』とか、ミシュアル国王が舞を迎えに来たとき、父が口にしていた気がする。もう何年も前に思えるが、三ヵ月も経っていないことに驚きだ。


「そして、あなたが懐妊していたら……事態はさらにややこしいことになる」



最悪、子供がいなければ表向きは円満に解決ができるという。

舞が正妃の立場を主張してクアルンに残ろうとすれば別だが、おそらく婚姻を取り消して日本に帰国、ということになるだろう、笹原はそう語った。


問題は懐妊していた場合である。

婚姻を無効にしても、国王の男子であれば母親の身分に関わらず後継者となってしまう。

ようするに、舞から正妃の身分を奪っても無駄なのだ。

ミシュアル国王が外国人女性に生ませた息子であっても、王子は王子。


と、なると……舞の懐妊が判明したら、まず命が狙われることは間違いない。

しかも、女子が生まれても将来的にどんな形で利用されるかわからないので、執拗に狙われ続けるだろう。


さらには、他国の内政干渉を望まないため、舞と子供がクアルン国外に出ることは認められない。

おそらく、日本をはじめ諸外国は原油問題でクアルンとの軋轢を避けようと、舞と子供の存在を無視するだろう、と。


舞が妊娠していたら、日本にも戻れず、どの国も受け入れてくれず、クアルンの王宮にも居場所はない。という、まさに大ピンチであった。


< 210 / 243 >

この作品をシェア

pagetop